ESSAY / 第一稿

自分の言葉で再記述する

AIの言葉を、自分の理解へ戻す

第一稿

AIの回答を吟味したあと、自分の言葉で再記述することで、外から来た文章を自分が説明できる理解へ戻す方法を整理します。

前回は、AIの回答をそのまま使わず、吟味することについて書きました。

AIの回答を、根拠、前提、反例、影響、責任に分けて点検する。使える部分、保留する部分、捨てる部分を分ける。そうすることで、AIの回答は「もっともらしい完成品」ではなく、自分が判断するための材料になります。

しかし、吟味しただけでは、まだ最後まで戻っていません。

AIの回答を点検した。
根拠も見た。
前提も見た。
反例も見た。
責任の所在も確認した。

それでも、その内容を自分の言葉で説明できなければ、思考はまだ外側にあります。

AIが書いた言葉を、AIが書いた形のまま覚えている。
AIが出した整理を、整理されたものとして眺めている。
AIがまとめた結論を、納得した気分で受け取っている。

この状態では、まだ自分の理解になっていません。

ブレインフルプロンプトでは、AIとの対話の最後に、必ず自分の言葉で再記述します。

一文で言えば、こうです。

再記述とは、AIとの対話で得た材料を、自分が説明できる言葉、自分が引き受けられる判断、自分が次に使える形へ書き直すことである。

AIの言葉を借りることは悪くありません。

しかし、借りた言葉のままでは、まだ自分の道具ではありません。

自分の言葉へ戻したとき、はじめて使える理解になります。

AIの言葉を自分の言葉へ戻す流れ AIの回答を吟味し、言い換え、判断を入れ、次の行動へつなげることで、自分の理解へ戻す流れを示す図。 AIの言葉 整っているが外側 吟味 根拠と責任を見る 自分の言葉 説明できる理解 再記述の三段階 言い換える 私ならどう言うか 判断を入れる どこまで引き受けるか 行動へつなぐ 次に何をするか 「私はこう考える」へ戻す AIの文章ではなく、自分が説明できる判断として残す
図1:再記述は、AIの文章を短くする作業ではなく、自分の文脈、判断、次の行動へ戻す作業である。

うまくまとまった文章ほど、危ない

AIの回答は、よくまとまっています。

見出しがあり、箇条書きがあり、結論があり、補足があります。こちらが曖昧に聞いても、AIはそれなりに整った文章を返します。

これは便利です。

しかし、便利さの裏側に危うさがあります。

文章が整っていると、理解も整ったように感じるからです。

読みやすい。
筋が通っている。
言葉がきれい。
自分が言いたかったことに近い。

そう感じると、私たちは「分かった」と思いやすい。

けれども、読んで分かった気がすることと、自分で説明できることは違います。

誰かに聞かれたときに、自分の言葉で言い換えられるか。
具体例を一つ出せるか。
反対意見を受けたときに、どこまで守れるか。
現場の状況に合わせて、言い方を変えられるか。
昨日とは違う問いの中でも、その考えを使えるか。

ここまでできて、ようやく理解は自分のものに近づきます。

AIの文章がうまいほど、私たちはこの確認を省きがちです。

だからこそ、再記述が必要になります。

再記述は、要約ではない

再記述というと、要約のことだと思われるかもしれません。

しかし、ここで言う再記述は、単なる要約ではありません。

要約は、文章を短くすることです。
再記述は、理解を自分の文脈に戻すことです。

AIの回答を短くまとめても、それがAIの言葉の圧縮でしかなければ、自分の理解にはなりません。

たとえば、AIが「生成AI導入では、目的設定、業務選定、ガイドライン整備、研修、効果測定が重要です」と答えたとします。

これを要約すると、こうなります。

生成AI導入では、目的、業務、ルール、人材育成、測定が重要である。

これは悪くありません。

でも、まだ一般論です。

再記述するなら、こうなります。

うちの場合、いきなり全社導入を考えるより、
まず問い合わせ対応と資料作成の二つに絞って試す方がよさそうだ。

理由は、現場の負担を増やさずに効果を見やすく、
失敗しても戻しやすい範囲だからである。

ただし、顧客に出す文章は人間が最終確認する。
AIに任せるのは下書きと論点整理までにする。

こちらは、自分の状況、自分の判断、自分の責任が入っています。

再記述とは、AIの一般論を、自分の場面で使える言葉へ変えることです。

自分の言葉には、責任が宿る

AIの言葉をそのまま使うと、責任の感覚が薄くなることがあります。

「AIがそう言っていた」
「AIがまとめた案です」
「AIに聞いたら、こう出ました」

この言い方は、便利です。

しかし、判断の責任を曖昧にします。

仕事で使う文章、講座で話す内容、顧客に出す提案、組織の方針、公開するエッセイ。どれも、最終的には自分が引き受けるものです。

AIが書いた文章を使うとしても、外に出す瞬間には、自分の言葉として説明できなければなりません。

そのために、再記述では次の問いを置きます。

私は、この内容を誰に向けて話すのか。
私は、この内容のどこに同意しているのか。
私は、どこを保留しているのか。
私は、この判断によって何を引き受けるのか。
私は、反論されたときにどこまで説明できるのか。

この問いに答えながら書き直すと、文章の温度が変わります。

AIの言葉は、広く、平らで、整っています。

自分の言葉は、狭く、具体的で、少し偏っています。

その偏りは欠点ではありません。

自分の文脈に立っている証拠です。

再記述には三つの段階がある

再記述には、段階があります。

第一に、内容を言い換える段階。

これは、AIの回答を自分が普段使う言葉に置き換えることです。専門用語を減らす。自分の業界の言葉にする。自分の顧客が分かる表現にする。

第二に、判断を入れる段階。

どこに同意するのか。どこを採用するのか。どこを保留するのか。なぜそう考えるのか。ここで、自分の立場が入ります。

第三に、次の行動へつなぐ段階。

再記述は、きれいな文章で終わる必要はありません。むしろ、次に何を確認するか、誰に聞くか、何を試すか、どの文書に反映するかまで書く方が役に立ちます。

まとめると、こうです。

段階 すること 問い
言い換える AIの言葉を、自分が使う言葉にする 私ならどう言うか
判断を入れる 採用、保留、反対、条件を明確にする 私はどこまで引き受けるか
行動へつなぐ 次に確認、実験、共有することを決める 次に何をするか

この三段階を通ると、AIの回答は「読んだもの」から「使えるもの」へ変わります。

再記述の基本プロンプト

AIに再記述を手伝わせることもできます。

ただし、AIに「私の言葉で書いて」と頼むだけでは不十分です。

AIは、あなたらしい文章を推測して書くことはできます。しかし、それが本当にあなたの理解かどうかは分かりません。

だから、まず素材を分けます。

先ほどの回答を踏まえて、
1. 使える考え
2. まだ保留すべき考え
3. 私の状況に合わせて言い換えるべき考え
4. 私が自分で判断しなければならない考え
に分けてください。

次に、自分の言葉に近づけます。

上の整理をもとに、
私が自分の言葉で再記述するための下書きを作ってください。

条件は次の通りです。
- 一般論ではなく、私の状況に引きつける
- 「私は」「うちでは」「今回は」を主語にする
- 採用すること、保留すること、次に確認することを分ける
- 断言しすぎず、判断の理由を書く

最後に、人間が書き直します。

AIの下書きを受けて、私はこう考える。

私は__を採用する。
理由は__である。

ただし、__はまだ保留する。
確認すべきことは__である。

次に、__を試す。
この判断について、私は__まで説明できる。

大切なのは、最後の部分をAIに丸投げしないことです。

AIに下書きを出してもらっても、最終的な再記述は自分で行います。

「うまい文章」から「使える文章」へ

AIが作る文章は、しばしば「うまい文章」です。

でも、仕事や学びで必要なのは、必ずしもうまい文章ではありません。

必要なのは、使える文章です。

使える文章とは、自分の場面で意味を持つ文章です。

誰に向けたものかが分かる。
何を決めるためのものかが分かる。
何をまだ確認していないかが分かる。
どこまでが事実で、どこからが判断かが分かる。
読んだあとに、次の行動が見える。

AIの文章をそのまま整えるだけでは、うまい文章にはなっても、使える文章にはならないことがあります。

再記述では、文章をきれいにする前に、用途へ戻します。

これは誰のための文章か。
何を動かすための文章か。
どの判断を支える文章か。
どの不確かさを残した文章か。

この問いに答えると、文章は少し不格好になることがあります。

けれども、その不格好さの中に、現場で使える具体性があります。

再記述は、理解の痕跡を残す

ブレインフルプロンプトでは、AIとの対話を一回限りのやり取りとして終わらせません。

問い、回答、違和感、吟味、再記述を残します。

なぜなら、理解は一度で完成しないからです。

あとから見返したときに、最初の問いがどこで変わったのか。AIの回答のどこを採用したのか。何を保留したのか。自分はなぜその判断をしたのか。

これらが残っていると、自分の思考の来歴が見えます。

これは個人の学びだけでなく、組織の判断にも重要です。

会議でAIを使った。
企画書づくりでAIを使った。
顧客提案の下書きにAIを使った。

そのとき、最終文書だけが残っていると、なぜその判断になったのかが分からなくなります。

しかし、再記述が残っていれば、AIの回答をどう受け取り、どこを直し、どこを人間が引き受けたのかが分かります。

再記述は、理解の痕跡です。

そして、その痕跡があるから、あとから直せます。

自分の言葉に戻すことで、AIと離れられる

AIを深く使うほど、AIの言葉に慣れていきます。

構成、言い回し、説明の型、結論の出し方。気づかないうちに、AIの文章のリズムが自分の考えのように感じられることがあります。

だからこそ、自分の言葉へ戻す時間が必要です。

再記述は、AIとの対話を終えるための儀式でもあります。

AIと一緒に考える。
AIから材料を受け取る。
AIの回答を吟味する。
そして最後に、自分の言葉で書く。

この最後の一歩によって、思考はAIから離れます。

AIを使うことと、AIに寄りかかることは違います。

自分の言葉で再記述できるなら、AIを使っていても、自分の思考は失われません。

むしろ、AIとの対話を通じて、自分が何を考えているのかが見えやすくなります。

ブレインフルプロンプトにおいて、自分の言葉で再記述することは、単なる仕上げではありません。

それは、理解を自分に戻すための中心的な工程です。

第8回では、「対話の来歴を残す」というテーマを扱います。

参考文献

  • Chi, M. T. H., Bassok, M., Lewis, M. W., Reimann, P., and Glaser, R. (1989). Self-Explanations: How Students Study and Use Examples in Learning to Solve Problems. Cognitive Science, 13(2), 145-182. https://doi.org/10.1207/s15516709cog1302_1
  • Flower, L., and Hayes, J. R. (1981). A Cognitive Process Theory of Writing. College Composition and Communication, 32(4), 365-387. https://doi.org/10.2307/356600
  • Kintsch, W. (1988). The Role of Knowledge in Discourse Comprehension: A Construction-Integration Model. Psychological Review, 95(2), 163-182. https://doi.org/10.1037/0033-295X.95.2.163
  • Scardamalia, M., and Bereiter, C. (1994). Computer Support for Knowledge-Building Communities. The Journal of the Learning Sciences, 3(3), 265-283. https://doi.org/10.1207/s15327809jls0303_3

ファクトチェック注記

  • 本稿で述べる「再記述」は、AI活用の実践上の整理であり、標準化された学術用語として提示するものではない。
  • 自分の言葉で説明すること、自己説明、書くことによる理解形成には関連研究があるが、本稿は特定のAI利用方法の効果を実証したものではない。
  • AIが作成した文章を公開、契約、医療、法務、財務、安全に関わる判断へ用いる場合は、自分の言葉への再記述だけでなく、一次情報、専門家、関係者による確認を前提とする。